電卓が売れたよ!≪九月十二日≫ -壱-目を覚ますと雨が降っている。 何もしない日に相応しい雨だ。 万病の元である風邪がひどくなり、日本から持ってきたブルフェン錠 を飲む。 日本を出るとき、田舎の隣に住んでいる中学校の同級生が、薬の営業 をしているという事で、抗生物質を大量にくれたのだ。 おおいに助かっている。 ≪テルペラン錠(消化器系)・パナシッドカプ セル(赤痢・大腸菌)・エスペラン(胃)・ブル フェン錠(風邪)・ジョサマイシン錠≫ ほかにクロマイとか・・・とにかく、いろいろ準備してきたから今 まで、食中りの下痢ぐらいで済んでいる。 精神的なものか、薬に頼ることが多いのは確かである。 こうしても何もしないでいると、今まで気にならなかった日本の事 が、頭の中を駆け巡る事になる。 彼女の事、アパートの事、旅を終えてからの事、・・・・断じて、 ホームシックではない。 風邪が追い討ちを掛けてくる。 今朝は目が覚める前に夢を見た。 立川事務所、課長時代の仲間たちのこと、田宮女史との浮気の夢。 なんでこんな夢を見たのだろうか。 風邪のせいか。 こんないろんな交錯が、長い旅の中の一瞬の休息なのだろうか。 * 午前十一時半。 ”Stone House Lodge”のマネージャーが、ゲストを一人連れて現れ た。 マネージャー「やー!」 俺 「ハーイ!」 マネージャー「実は、電卓を売ってもらえないだろ うか?この人が欲しがっているで ね。」 ハウスのマネージャーは、大きな男をつかまえて言った。 俺 「カメラは?」 マネージャー「電卓だけで良いんだ。USドル払いで は、どうにも高くて手に出来ないから ね。」 俺 「OK!250Rs(5500円)。」 マネージャー「OH!NO!ちょっと高いよ。150Rs (3300円)でどうだい!」 俺 「いやいや!この電卓は小型の最新式 の奴なんだ。日本でも300Rs(6600円) はするからね。」 マネージャー「でも、ちょっと高いね。」 俺 「じゃあ!200Rs(4400円)だ。これ以 上はまけられないね。」 マネージャーは、大きな男とネパールの言葉で話をしている。 男は手のひらを上に挙げて、”仕方ないね!”と言う顔を見せた。 マネージャー「OK!200Rsで買いましょう!」 マネージャーと男は手を差し伸べてきた。 商談成立の瞬間だ。 俺 「ところでどうだい!カメラは?」 マネージャー「ちょっと高いね。手が出ないよ!」 マネージャーと男は”サンキュウ!”と言って出て行った。 * 早速、彼女達の宿に向かった。 俺 「売れたよ!電卓。」 明子「えっ!売れたの!カメラ。」 俺 「いや!電卓。200Rsで。」 明子「ありがとう。早速服でも買おうかな。」 俺 「カメラは高いって。USドルでは無理みたいだ な。」 明子「Rsでも良いって!」 俺 「そうするか。」 マンドリンで、彼女達と昼食を済ませた。 彼女達と別れた所で、闇や屋に遭遇。 闇や「両替しないか!」 俺 「レートは?」 闇や「一ドル、14Rsだ。50ドルどうだ。」 俺 「もうすぐ、ここを離れるのに50ドルは使い切 れないよ!」 闇や「じゃ、20$。」 俺 「10$しか替えないよ。」 闇や「OK!10ドルだ。140Rsね。」 俺 「OK!」 闇や「もっと替えてくれよ。」 俺 「ダメ!」 相変わらず、雨は降ったり止んだりを繰り返している。 部屋に戻ってからは、カトマンズで買ったバッグに、ホックをつけた りしているうちに、眠ってしまったようだ。 * 夕食のために外へ出る。 おまわりが大勢出ている。 人も大勢出ていて、・・・・人込をかき分けてマンドリンにたどり着 いた。 親父に聞くと、やっぱりお祭りだとの事。 たぶん山車でも出ているんだろう。 カトマンズに到着したその日も、国王と生き神様のフェスティバル にであったばかりなのに、・・・・時期的にラッキーだったのかも知れな い。 斜め前のテーブルには、毛唐が地元の可愛い娘を連れて食事をしてい る。 カトマンズの娼婦だ。 ”あんな毛唐なんかと・・・・。” マンドリンからの帰り、ビールとつまみを買って部屋に戻った。 明日はネパール最後の日になる。 只今、US$175(52500円)。 これで、目的地のアテネまで行くつもりなんだけど・・・・・・。 行けるかな? 行くしかない! ≪これからのルート≫ カトマンズ(バスで24時間、24.4Rs)~ベルガン~ (鉄道)~ラクソール~デリー いよいよ正念場のインド・中近東への旅へと入って行く。 あの玄奘三蔵が、魔物たちと戦った地を旅しなくてはならない。 これまでの遊び半分の旅とは、明らかに違う旅。 二度と、日本の土を踏めないかも知れない旅。 覚悟してかかれ! ジャンル別一覧
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